まず言わせてほしい。うちは建築会社ではありません
資材高騰に人件費の上昇、さらに金利まで上がっている今の状況で、「新築アパートを建てませんか?」と営業をかけられている方も多いと思います。
最近よく目にするのが、新築アパートを売っている会社の社長自らがSNSや動画で「金利が上がっても、うちの建物なら賃料を上げられるから問題ない」と堂々と発信している姿です。
これを見て、私たちは現場で頭を抱えています。
最初に立ち位置をはっきりさせておきますが、うちはアパートを建てて売る会社ではありません。
日々、入居者からのクレームを受け、家賃の滞納を追い、空室が出たら募集図面を撒き、家賃交渉の矢面に立ち続けている賃貸管理、仲介、家賃保証の会社です。
新築を売って数千万円の利益を抜く利害関係が一切ないからこそ、現場の実態をそのまま書きます。
会社のトップが必死に叫んでいる時点で、現場は相当キツい
なぜ営業マンではなく、会社の代表自らが矢面に立って「家賃転嫁できる!」と強気な発信を繰り返しているのか。
理由は単純で、そう言わないと今の価格設定では物件が1棟も売れないからです。
建築費がこれだけ跳ね上がり、金利まで上がってくると、まともな収支計算書を作ったら手残りがほとんど出ません。普通に電卓を叩けば「これ、建てる意味ある?」と客にバレてしまう。
だから「これからはインフレです」「高品質なアパートなら家賃を上げて乗り切れます」という、都合のいいファンタジーをトップ自ら演出し続けるしかないわけです。
社長が必死になっている会社ほど、従来のビジネスモデルが完全に限界を迎えているサインだと見るべきです。
「金利が上がったら家賃を上げる」が現場で絶対に通用しない理由
業者は「金利が上がれば家賃に転嫁できる」と平然と言いますが、賃貸の現場を1日でも知っていれば、それがどれだけ出鱈目か分かります。
借地借家法がある以上、入居者の合意なしに1円も上げられない
日本の法律(借地借家法32条)は、借家人を徹底的に守っています。
オーナー側が「ローンの金利が上がったから家賃を5,000円上げてくれ」と言ったところで、入居者が「嫌です」と断ればそれでおしまいです。入居者が従前の家賃を払い続けている限り、追い出すことなんて絶対にできません。
裁判を起こして数千円の値上げを勝ち取るために数十万円の弁護士費用を払いますか?やるわけがありません。
アパートローンに「125%ルール」なんてない
住宅ローンと勘違いしている人が多すぎます。住宅ローンなら金利が上がっても支払額が据え置かれるルールがありますが、アパートローンはただの事業用融資です。
金利が上がれば、次の見直しタイミングからダイレクトに毎月の引き落とし額が増えます。猶予なんて1ヶ月もありません。
退去された時点で、もう「新築」ではない
「じゃあ退去した後に、次の入居者の家賃を上げればいい」と言う人がいます。
ですが、人が住んで退去した時点でその部屋はただの中古です。
新築時はデザインや設備が新しくて周辺相場より1〜2割高い家賃(新築プレミアム)が取れていたとしても、5年も経てば相場並みに落ちていきます。家賃相場自体が下がっていく築浅中古の部屋に、金利上昇分を上乗せして新築時より高い家賃をつけて、一体誰が入るというのでしょうか。
戸数が少ないアパートほど、新築時の値付けミスで即死する
新築だからといって、黙っていても満室になる時代ではありません。
特に4戸〜6戸くらいの木造アパートは、最初の値付けを一歩間違えただけで地獄を見ます。
「新築だから強気で行きましょう」と相場より高い家賃で募集をかけ、完成までに埋まらなかったらどうなるか。
完成した瞬間に「売れ残りの新築」のレッテルを貼られ、ポータルサイトで放置されます。
4戸のうち1戸空くだけで収入は25%減、2戸空けば50%減です。返済額は毎月容赦なく引き落とされるので、即座に手元資金からの持ち出し(赤字)になります。
慌てて家賃を下げれば、その下げた家賃が今後の基準になってしまい、新築プレミアムすら回収できずに終わります。
「入居率98%」と「家賃保証」のカラクリ
検討している人を安心させるために業者がよく使う2つのキラーワードがありますが、これも裏を知れば何の安心材料にもなりません。
子会社管理会社の入居率98%は、新築ばかり集めているだけ
デベロッパー系列の管理会社が「入居率98%!」と胸を張るのは当たり前です。
管理している物件のほとんどが新築や築浅なのですから、埋まって当然です。
築15年、20年と経って古くなった物件を必死に満室にしている独立系管理会社と、築浅ばかり抱えて数字を良く見せている会社の入居率を同列に比較してはいけません
家賃保証(サブリース)の金は、あなたが払った建築費から出ている
「30年一括借り上げだから安心」と言う営業マンがいますが、その保証の原資はどこから出ているか考えたことはあるでしょうか。
相場より何千万円も高く設定された建築費から、業者がガッツリ抜いた利益の一部をプールして、後からあなたに小出しで返しているだけです。自分の財布から余分に取られた金を、保証という名目で受け取っているに過ぎません。
しかも数年も経てば「相場が下がったので保証家賃を減額します。嫌なら解約です」と言われるのがオチです。
会社が異様に儲かっている=あなたがぼったくられている
そのアパート販売会社、やたらと派手なオフィスを構えたり、すごい勢いで最高益を更新したりしていませんか?
もしそうなら、冷静に考えてみてください。その莫大な利益はどこから湧いて出たのかを。
全部、あなたが背負わされた30年・35年の借金から引っこ抜かれた利益です。
業者は建物を引き渡した瞬間に数千万円の利益を確定させて「ごちそうさま」で終わりです。しかし、割高な価格で買わされたオーナーは、これから30年以上、金利上昇や修繕リスク、空室リスクに怯えながら毎月の返済を続けなければなりません。
まとめ:建てるなとは言わない。ただ、電卓は自分で叩け
今の市況で新築アパートを建てること自体を全否定はしません。
自己資金が潤沢にあって借入比率を低く抑えられる地主さんや、立地が抜群でどうしてもその場所に建てたい理由があるなら、選択肢としてはあり得ます。
ただ、一つだけ言いたいのは、「業者の甘い試算とポジショントークを信じるな」ということです。
「金利が上がっても家賃を上げられる」なんて都合のいい嘘を真に受けてはいけません。
アパートを建てるかどうか迷ったら、建てることで大儲けする建築会社ではなく、建てた後の泥臭い現実を何十年も見続けている現場の管理会社に、その事業計画書を持ち込んでみてください。一瞬で本当の数字を教えてくれます。