一時期、富裕層の間で相続税対策としてタワーマンションの上層階を購入することが流行しました。タワーマンションは節税効果が高いため、「タワマン節税」なる言葉まで登場したほどです。2章ではタワーマンションにおける節税効果の仕組みと、その後行われた国税庁の規制についてお話しします。
一時期、富裕層の間で相続税対策としてタワーマンションの上層階を購入することが流行しました。タワーマンションは節税効果が高いため、「タワマン節税」なる言葉まで登場したほどです。2章ではタワーマンションにおける節税効果の仕組みと、その後行われた国税庁の規制についてお話しします。
タワーマンションとは、一般的に20階以上の住居用建物を指します。タワマンマウント(タワーマンションの階数によって、高い階の人が低い階の人に対し、自分の方が優位であるかのようにふるまうこと)、階層カースト(住んでいる階層が住民の上下関係に反映すること)といった言葉があるように、タワーマンションの価格は、上層階にいけばいくほど高くなります。
ところが、タワーマンションを相続税評価額という観点から見た場合、低層階なのか上層階なのかといったフロアの高さは、一切関係ありません。建物に関しては、専有面積によって固定資産税評価額が決まるため、階数が違っても、占有面積が同じであれば評価額も同じになるのです。
マンションは、配管などを通す都合上、上下階の住戸は同じ間取りとなっているのが一般的です。つまり、7階にある701号室と15階にある1501号室と30階にある3001号室は間取りが同じ、つまり占有面積が同じであり、評価額も同じになります。
さらに、タワーマンションは限られた土地に、多くの戸数が入っています。土地に関しては、マンションの総敷地面積の評価額を戸数で割って算出するため、低層のマンションに比べタワーマンションのほうが、評価額が低くなる傾向にあります。しかも、タワーマンションは建設できる場所が限られており、数が少ないため、普通のマンションに比べ希少価値があります。特に最上階などは、将来的に値段が上がることはあっても、大幅に下がることは少ないと考えられます。売却する際にも、売れない心配、価格が極端に目減りする可能性は低いといえるでしょう。こうしたメリットがあることから、節税対策としてタワーマンションが脚光を浴びることとなり、「タワマン節税」という言葉まで生まれたのです。
まさにいいとこ取り、いいとこづくしのように見えるタワマン節税。しかし、そうそう甘くないのが世の中というもの。
ある事例をご紹介しましょう。
2007年、あるタワーマンションの住戸が3億円で売買されました。購入した人物を、ここでは便宜的にA氏とします。A氏は資産家ですから、3億円のタワーマンションを購入してもなんら不思議ではありません。しかし、売買契約が結ばれたのは、A氏が入院中のこと。しかも、A氏はその後ほどなく亡くなりました。
A氏の死後、タワマン節税の恩恵により、3億円で購入したタワーマンションの相続税評価額は約5800万円になり、相続人たちはおよそ1億円の節税をすることに成功しました。そして、程なく3億円のそのタワーマンションの住戸は売却されたのです。
うまくいったはずに見えたタワマン節税。しかし、国税局の査察が入り、タワーマンションを購入した際、A氏には意思決定能力がなかったことがわかり、またマンションがすぐに売却されていることなどから、A氏の相続人は追徴課税を支払うことになりました。
効率性の高いタワマン節税は、タワーマンションを購入できる富裕層にとっては、魅力的な対策といえるでしょう。しかし、前述したような行き過ぎた節税対策を規制しようという動きも起こっています。2017年に行われた税制改正がその一つです。
この改正により、2017年以降に建てられたタワーマンションについては、固定資産税が上層階のほうが高く、低層階のほうが低く設定されるようになったのです。
とはいえ、高層階と低層階における固定資産税額の差は10%程度。見直しが行われたとはいえタワーマンションの節税効果は依然として高いのも現状です。ここでご紹介したタワマン節税は極端な例とはいえ、実際、タワーマンションに限らず不動産投資は相続税対策として一定の効果が見込めます。
しかしながら、国税庁も行き過ぎた節税対策には目を光らせているのも事実であり、相続の場合、実に10件に1件の割合で、税務調査が入ると言われています。
相続税対策として不動産投資を行う場合は、こうした事情も十分考慮しておきたいものです。